おおかみこどもの雨と雪 - ベクトルインサイド   

ページ

2012/09/12

おおかみこどもの雨と雪



7月に映画館に見に行って、その後色々なレビュー見ちゃったんで頭をリセットすべく漬けておいてました。いや忘れてた。。。
Annのサンダルの記事書いたついでに完成させたんですが、私事ながら会社の社外研修やら部署移動の引継ぎ業務やら資格試験やらで現実逃避しようにも中々時間が…


私は書き方的に否定派に近い感じになると思うので、もし苦手でしたら~、という居るのか分からない相手へのエクスキューズ()を先にすませておきます。


いや、ざっと見た感じはてブが中心なイメージなんですが、賛否が結構はっきり分かれてる作品だったような気がします。主に花さんに。

というよりも、作画やシナリオより登場人物の人間関係にフォーカスされた賛否だったんですよね。
いわゆるアニメ物に付きものな作画の乱れなりキャラクターと声の違和感なりを挙げて批判している人は少なかったと思います。
となるともう本気で批判してる人も物語世界の中に引き込んでる訳で、そういった意味では十二分に細田守の一人勝ちですよね。



先に言っておくと、とても考えさせられる、少年少女以降子育て完了前の年代に向けての映画でした。
前二編から上手く対象年齢持ち上げたね。時かけでリアルタイム同世代だった人にはばっちりなんじゃなかろうか。



以下項目立ててだらだら語ります。







おとうさん?

この映画、多くの方が指摘してるとおりタイトルに「こども」が出てくるのに実際のところ母親の花さん実際お父さんになる彼と出会って死別するまで、殆ど花さんにしかカメラ向いてねぇ。

というよりも、意識的にお父さんの存在が省かれてる感がありました。
後で監督のインタビュー見たらその通りのこといってましたね。

でも、その省き方が、「匿名のお父さん」っていう方向になっているのが気にかかりました。
あくまで花さんはお父さんのことをずっと思っているんです。
わざわざ雨の服をお父さんとクリソツにするくらいに。


雨も、田舎に越してきて自然園みたいなところでオオカミを見た後にお父さんの存在について言及する部分がありましたね。
あれは本人が将来の姿について考えたときに出てきた言葉であって、単純に会いたいとか寂しいとかではありませんでしたが、
自分をこの世に残した、また種としての先祖である存在として頭のどこかにあったことは伺えると思います。


そんなお父さんですが、お父さん個人を説明するシーンっていうのはびっくりするくらいありませんでした。
アルバイト(?)で力仕事をしているシーンは花といないときに何をしているのかのエクスキューズでしかないし、デートのシーンは花のかわいらしさと結婚する過程の描写。
学校で勉強していたとき見たいな知識欲の発露は冒頭の出会い以外になかったように思われます。

そして、溺れて死んでゴミとして捨てられる。


でも、その中で一度もお父さんがどういう人だったか、何を考えて生きてきたのかっていうのは自分の口からは語られないんですね。



たとえ意図的にフォーカスを外すにしても、その後おおかみこども達がそれぞれ「ヒトとしての生き方」「ケモノとしての在り方」を選び取る結末があるだけに、
大学に通っていた理由について、いや、一人のオオカミオトコとしての核の部分をもう少し掘り下げて欲しかった感があります。
花がいかにして産んだかの説明程度のパーソナリティで終わらせちゃったら、まるで産ませる機械だよ。

まぁとっていた授業が哲学だった点から何をかいわんや。ということになるんだろうけど。
サマーウォーズで入った人、子供とかにはむずかしいんじゃないかなぁ。





前半の「アニメ」じゃない描き方


タイトルで言いたいことは全てなわけですがw
よくアニメや漫画であるようなくどいくらいの説明ってなかった気がします。
一人称の観点から見えない部分は語らない、みたいな。
児童相談所の人を描いたようなシーンも、他方から見れば勿論意義のある仕事だし、心配してやってきてたわけです。

だから多分、この映画じゃなかったら最初に周りの住人が子供の騒ぎ声(考えてみればおおかみとして駆け回ったり物壊したりしてるんだからすごい物音になるはず)について心配してるようなシーン→児相内部での会議→訪問シーンみたいになるのかもしれない。

でも、当然ながらそんなことは花たちからは見えないわけで。
だから、そのようなシーン自体を省いた。
あくまで花という視点を通しての物語。



この構成、すごく好きでした。もう手放しで褒めたい。
ジブリみたいな上辺のほんわかした感じがなくて、すごくソリッド。(まぁジブリ自体も中身までホンワカなのは某山田君くらいと思いますが。)


お父さんについての部分では批判しましたが、全編この調子で行くならお父さんをアノニマスな感じに描いたのも実にいい判断だったと思います。


だからこそ田舎に行った後の押し付けがましい説明シーンは少し蛇足に感じてしまった。
田舎に来たとたんに応援してくれる人の描写が入り、それこそまるで「おとぎ話のような」展開に。





花が老けない


むむむ、なポイント。
全編通して花の可愛らしさが可愛らしさのままなんです。疲れてるときも、畑仕事してるときも、最後の入学式のシーンについても。


ババァにしろとは言いません。言いませんが、子供たちの年次が上がるにつれての描き分けがとても良い出来(皮肉じゃなしに。声優さんの演じ方も含め素晴らしくクオリティが高かったです。)だっただけに、結果的に花の時間が止まっている印象があるんです。

・ことあるごとに夫を思い出す
・息子に夫の服にそっくりな服を着せる
・子供たちが巣立っていって食べるのが思い出の焼き鳥


これに老けず、表情も変わらず態度も一貫した花さんを掛け合わせると、
親としての「花の成長」についてはずいぶん薄味というか、夫が死んでから時がとまってしまったような印象になってしまったかな。


雨と雪


対して、おおこみこども二人の対比はずいぶんとよくできていたなぁと思います。
幼年期に活発だった雪とおとなしかった雨
二人とも、それぞれの出会いを契機に反転するんですよね。


だからこそ、雪はおおかみとしての生き方を怖がり、雨に対して批判的になってしまったし雨は雪のケモノとしての性を捨てた生き方を理解できなかった。


二人の喧嘩のシーンも、お互いの生き方のぶつかり合いだっただけじゃなくて、
幼年期に優位だったから自分から喧嘩をふっかけてしまった雪とオオカミ同士(というか獣同士)のじゃれあいを経験してこなかったためにちょっとやりすぎくらいに追い込んだ雨の、これまでの生き方の中で育ててきた気持ちが露呈した1シーンだったと思います。


また、上のほうでも書きましたが二人の身体的な成長が本当によく描けていたと思います。
わりとこの手の映画だと年ごとの変化はそこまでハッキリと見えないものが多かったように思いますが、二人の変化はとても分かりやすかった。
特に教室前の廊下を水平視点で移動しながら年の移り変わりを描きだすシーンは秀逸でした。

ここら辺は子供の数が少なかったことも要因かな?数が多いと変化出しすぎたら分からなくなっちゃう可能性もあるもんね。


ここら辺、「特殊な子供」の育て方と母の個性の容認の仕方は色々と読み替えることもできるのかなぁと。
雨なんて「一般的なレールの上を進む生き方」を拒絶してマイノリティな人生を進むって言う点ではいわゆるロッカーを目指すこどもやなんかと変わらないなぁって思ったり。


また、このような環境で育った二人が最終的には母親から離れる道を選んだことも、ある意味ではとてもケモノらしくて。



まとまりがないのですがこんな雑感です。後で適当に差し替えるかも。





子育て描写         6点
子供達の成長描写     9点
後に残るもの       10点
あと一味感        10点
総合評価          8点